温井 柊子−2−



梗子「おてつだいだおっ!」

梗子先生が来た。

梗子「これは、うりゅうのぶん!!」

そう言って、梗子先生は持っていた皿を俺に手渡す。

菁「……え?」

梗子先生の運んできたオムライスには、ケチャップででっかく『LOVE』の文字。
しかも、『LOVE』をハートで囲んであった。

梗子「しゅうちゃんがねー、これうりゅうにたべておって」

菁「え。温井さんが……?」

え……、これって、あの……?

梗子「しゅうちゃんがこころをこめたんだってお」

菁「心、を……?」

えーと、えーと……
LOVEってLIKEじゃなくって、その……
あのLOVEだよな!?

梗子「ついでだから、ハートにしたらかわいいおってきょうこがいったの!!」

菁「……そ、そうなんですか……」

梗子「そしたらね、しゅうちゃんがまっかっかになってはーとにしたんだおっ!!」

菁「……真っ赤に、ですか……」

今、ぜったいに俺のほうが真っ赤になってる。

LOVEって……温井さんはそんな冗談をするような人じゃないと思うし。

柊子「あの、雨竜くん……。これ……食べて?」

菁「温井さん……いや、柊子……」

柊子「菁くん……」

なーんてな……へへ。

梗子「うりゅう……?」

柊子「おまたせー……」

温井さんが来たけど、何だか恥ずかしくって顔が上げられない。

菁「…………」

柊子「……雨竜くん、どうしたの? はい、これがお姉ちゃんの分ね」

梗子「やたおー! けちゃっぷのうさちゃんだおー!」

柊子「雨竜くん? ホントにどうしたの?」

菁「…………あの……」

俺は勇気を振り絞って顔を上げた。

柊子「ん?」

菁「……?」

……あれ? 温井さん普通の顔してるんだけど。

梗子「いっただっきまーす!!」

柊子「こぼさないでね、お姉ちゃん。……ん?」

温井さんの視線が、俺の皿で止まる。

柊子「え……? え?」

そして、オムライスを見て真っ赤になった。

柊子「ちょっ……コレなに? ちょっと、お姉ちゃん!?」

―――あれ?
―――お姉ちゃん?

梗子「んー? おむらいすちょうおいしいお」

柊子「これ書いたのお姉ちゃんでしょっ!?」

……え?
梗子先生が、書いたの?

梗子「んー? きょうこはなにもしりませんお?」

柊子「お姉ちゃん、どーしてこんなヘンなイタズラするの!?」

梗子「し〜らなぁ〜い」

菁「そ、そうだよな……あはは……」

よく考えてみれば、そうだよな……。

こんなアピールの仕方おかしいし、第一、皿を運んできたのって梗子先生だし……。

梗子「うさちゃんのおむらいす、おいしいお〜♪」

柊子「もう……」

俺、なんで勘違いしたんだろ。
昼の暑さのせいかな……

柊子「ごめんね雨竜くん、お姉ちゃんがヘンなイタズラしちゃって……」

菁「ヘンな……イタズラ……」

浮かれてた分、俺はちょっとだけへこんだ。

柊子「ほんとにゴメンね?」

菁「ううん、俺全然気にしてないし! ……このオムライス超うまそうだよね! 食っていい? いいよね? いっただっきまーす!」

LOVEの文字をスプーンでぐしゃぐしゃにしたあと、俺は誤魔化すように明るく言って、オムライスをかきこむ。

菁「……うまい」

本当にうまい。

梗子「きょうこはなにもしてないお? なにもかいてませんお?」

菁「うん、すげえうまい! 中のチキンライスも超うまい!」

オムライスは超うまかったけれど、少しだけ切ない味がした。



 



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